高血圧について

高血圧について│なかむら鍼灸院長浜整体院

Ⅰ、概要

世界保健機関WHOの基準(1978)によると、最大血圧が160mmHg以上、あるいは最小血圧が95mmHg以上のいずれか一方、あるいは両方が持続する場合を言う。本態性、腎性、内分泌性に分けられる。
高血圧(Hypertension)とは、血圧が正常範囲を超えて高く維持されている状態である。
高血圧自体の自覚症状は何もないことが多いが、虚血性心疾患、脳卒中、腎不全などの発症原因となるので臨床的には重大な状態である。
生活習慣病のひとつとされる。
高血圧というのは中年以降になってその状態になってしまってから対処する、といった発想で対応してよいものではなく、若いうちから生活習慣を改め、予防することのほうがはるかに大切で、それこそがもっとも有効な対策となる。
一般的に、若いうちから塩分を控えた食生活にすることや、たっぷり野菜をとることや、喫煙をしないことや、適度に運動を実行することが鍵となる。本人の努力も必要なことは言うまでもないが、親や家族や地域の連携的な対策も鍵となる。
米国では1995年に、成人全体の24%には高血圧があり、そのうちの53%の人は降圧剤を服用していたという。
日本には4000万人の高血圧の人がいると推定されている(日本高血圧学会)。
肥満、高脂血症、糖尿病との合併は「死の四重奏」「syndrome X」「インスリン抵抗性症候群」などと称されていた。
これらは現在メタボリックシンドロームと呼ばれている。

Ⅱ、定義

日本高血圧学会では高血圧の基準を以下のように定めている。

成人における血圧値の分類(mmHg)
分類収縮期血圧拡張期血圧
至適血圧<120かつ<80
正常血圧<130かつ<85
正常高値血圧130~139または85~89
Ⅰ度(軽症)高血圧140~159または90~99
Ⅱ度(中等症)高血圧160~179または100~109
Ⅲ度(重症)高血圧≧180または≧110
収縮期高血圧≧140かつ<90

すなわち、収縮期血圧が140mmHg以上または拡張期血圧が90以上に保たれた状態が高血圧であるとされている。
しかし、近年の研究では血圧は高ければ高いだけ合併症のリスクが高まるため、収縮期血圧で120未満が生体の血管にとって負担が少ない血圧レベルとされている。
ここで注意すべきは、血圧が高い状態が持続することが問題となるのであり、運動時や緊張した場合などの一過性の高血圧についての言及ではないということである。
高血圧の診断基準は数回の測定の平均値を対象としている。運動や精神的な興奮で一過性に血圧が上がるのは生理的な反応であり、これは高血圧の概念とはまた違うものである。
血圧は1日の中でも変動している。そのため、計測する時間帯には正常値の基準を満たしているものの、その他のほとんどの時間帯には高血圧となっている場合がある。これを仮面高血圧と呼ぶ。
また、降圧剤が処方されている場合でも、その効果が切れている時間帯では安全域を外れている場合もある。
この点にも留意する必要がある。逆に、普段は正常血圧なのに診察室で医師が測定すると血圧が上昇して、高血圧と診断されてしまう場合もあり、“白衣高血圧”と呼ばれている。
糖尿病患者では起立性低血圧の症例が有るため、座位だけでなく臥位・立位でも測定する。
上腕の血圧測定結果で左右の血圧差が生じることがある。血圧差は、上腕動脈或いは鎖骨下動脈の病変に起因すると考えられ、差が10mmHg以上の患者は心血管疾患による死亡リスクが有意に高い。
また、家庭で測定を行う場合は高い側の腕で測定を行うことが推奨されている。
日本高血圧学会によれば「家庭血圧測定条件設定の指針」で次のように定めている。
測定部位:上腕が推奨。手首、指血圧計の使用は避ける。
朝の場合は、起床後1時間以内、排尿後、服薬前、朝食前の安静時、座位1~2分後に測定。
夜の場合は就床前の安静時、座位1~2分後に測定。
朝夜の、任意の期間の平均値と標準偏差によって評価。
家庭血圧は135/85mmHg以上は治療対象、125/75mmHg未満を正常血圧。

Ⅲ、原因

現在、原因が特定できている場合とそうでない場合で大きく二分類して、原因がよくわからない「本態性高血圧症」と、特定の原因が明らかになっている「二次性高血圧」に分類するということが行われている。
現在の医学では、「本態性高血圧症」のほうの割合がかなり多い。つまり現在の医学のレベルでは高血圧に関しては原因があまりよく判っていない場合のほうが多い。
ただしこの二分類は、あまり固定的に理解するのはあまり正しくなく、医師が仕事を進めるうえでの便宜的なものだと理解したほうがよい。
「二次性高血圧」(原因が特定されているもの)に関しては、いろいろな場合がある。 本態性高血圧の原因については、原因のよく判らないものを「本態性高血圧症」と呼ぶことにしているので、良く判っていないとされているわけであるが、「原因は単一ではなく、両親から受け継いだ遺伝的素因が、生まれてから成長し、高齢化するまでの食事、ストレスなどの様々な環境因子によって修飾されて高血圧が発生する」という説(モザイク説)がある。

動脈硬化症による脳内酸欠:一般的に病院で「高血圧」と診断される大部分の原因は、上行大動脈の動脈硬化症による脳内酸欠を防ぐための血圧上昇である。
この動脈硬化症の原因をさらに遡ると食生活や喫煙や運動不足である場合が多い。
塩分のとりすぎ:食塩の過剰摂取は、血圧の上昇を招き、心臓病や脳卒中のリスクを高める。
アフリカのマサイ族や南太平洋のフィジーの人々など未開の地では、塩分摂取が少ないので、高血圧の人はほとんど見当たらない。
動物に食塩を多く含むエサを与えると高血圧になる。
日本人の食塩摂取量は、欧米人より多い。日本人の高血圧の発生には食塩過剰摂取の関与が強いとされる。
厚生労働省の栄養所要量によれば、食塩の必要量は1日1.5gであるが、日本人の食塩摂取量は1日平均11.2gである。

海と異なって陸上には食塩の摂取源が無いが、汗などで失うから、陸上動物は慢性的な食塩欠乏状態にある。陸上動物の体には、食物に含まれる食塩を大切に保持する仕組みがある。また、食塩を含む食物を美味しいと感じるように進化している。
それで、多くの食塩を混入させた加工食品を好ましいと感じて、なかなか排除できないのである。
世界保健機構WHOは、高血圧のある人も無い人も、食塩摂取を5g/日以下にすることを強く推奨している。
また、米国国立健康研究所NIHは、51歳以上の人について、高血圧のある人も無い人も、食塩摂取を3.8g/日以下にすることを推奨している。
日本の高血圧治療ガイドライン2014では、高血圧のある人に1日6g未満という減塩を推奨している。
日本人の食塩嗜好は野菜の漬け物、梅干し、魚の塩漬けなど日本独自の食生活と関連がある。食塩摂取量に関して、静岡県浜松市遠州病院による2008年7月から2012年12月までに合計35,500人(男性22,749人平均年齢56.3歳)を対象とした調査では、男性12.4g、女性8.4gで、ガイドラインの1日6.0g以下の推奨目標値を達成できているのはわずか3%だった。
また、食塩(塩化ナトリウム)だけでなく、重曹(炭酸水素ナトリウム)、アミノ酸など(グルタミン酸ナトリウム)などを含む食品および胃腸薬の摂取に対しても注意が必要である。
食塩の過剰摂取が高血圧の大きなリスクとなるのは、身体の電解質調節システムに原因がある。
細胞外液中でナトリウムをはじめとする電解質の濃度は厳密に保たれており、この調節には腎臓が大きな役割を果たしている。
すなわち、濃度が正常より高いと飲水行動が促され、腎では水分の再吸収が促進される。反対に、濃度が低い場合は腎で水分の排泄が進むことになる。
その結果として、血中のナトリウムが過剰の場合は、濃度を一定に保つため水分量もそれに相関して保持され、全体として細胞外液量が過剰(ハイパーボレミア:hypervolemia)となる。腎のナトリウム排泄能(通常、ナトリウム0.15~0.3mol/日、食塩9~18g/日に相当)を超えて塩分を摂取している場合、上記のメカニズムで体液量が増加して高血圧を来す。ナトリウム過剰で高血圧をきたしやすい遺伝素因も存在することが確認されている。

K(カリウム)、Mg(マグネシウム)、Ca(カルシウム)は、ナトリウムに対して拮抗的に働く。
それらの元素を多く含む野菜、果物、牛乳などを充分に摂取すると、体内の過剰なナトリウムは、体外へ排泄される。(ダッシュダイエット参照)。
肥満、飲酒なども高血圧の発症に関与するとされている。(これも概して食生活に起因するものである)。
ストレスも高血圧の発症に関与するとされている。
血圧反射機能の障害なども高血圧の発症に関与するとされている。
両親の一方あるいは両方が高血圧であると高血圧を発症しやすい、というデータがあるが、遺伝性についての要因分析に関しては慎重になる必要がある。
砂糖が高血圧の原因の一つであるという説がある。
仮説の一つによれば、砂糖のうち特に果糖が、インスリン抵抗性をもたらし、血糖値を上げ、糖化反応により動脈硬化を起こし、高血圧をもたらす。
実際、米国国立健康研究所NIHによる高血圧食であるダッシュダイエットでは、砂糖摂取を1日に約15g以下に制限するよう勧めている。

脂肪細胞が肥大化すると、血圧に関連して次のことが起こる。

1)過剰に分泌されたレプチンが交感神経の活動を亢進させ、血管を収縮させること等により、血圧を上させる。
2)レニン-アンジオテンシン系の活性化
アンジオテンシノーゲンは肝臓で産生されるが、肥大化脂肪細胞からも産生、分泌される。アンジオテンシノーゲンから生成されたアンジオテンシンⅡは、副腎皮質球状帯に作用してナトリウムの再吸収を促進するアルドステロンの分泌を促進し体内に水分を貯留する。
また、脳下垂体に作用し利尿を抑えるホルモンである抗利尿ホルモンであるバソプレッシン(ADH)の分泌を促進し同じく体内に水分を貯留する。これらのことにより高血圧を招く。肥満患者において高血圧症が多いのはこのためである。
肥満によるインスリン抵抗性は高インスリン血症を来す。高インスリン血症は、腎尿細管へ直接作用してナトリウム貯留を引き起こし、これが水分を貯留し結果として血糖値を下げる作用につながるが、水分の貯留により高血圧を発症させることとなる。

Ⅳ、診断

血圧は変動しやすいため、高血圧の診断は少なくとも2回以上の異なる機会における血圧測定値に基づいて行われるべきである。
最近は家庭血圧計が普及しているが、家庭で自分自身で測定した血圧値の方が、診察室で医師や看護師によって測定した血圧値よりも将来の脳卒中や心筋梗塞の予測に有用であるとする疫学調査結果が相次いで報告されている。診察室での血圧測定では、白衣高血圧(医師による測定では本来の血圧よりも高くなる現象)や仮面高血圧(普段は高血圧なのに、診察室では正常血圧となる現象)が生じるため、必ずしも本来の血圧値を反映していないという考え方が普及している。家庭での正常血圧値は診察室での血圧値よりもやや低いために、家庭血圧では135/85mmHg以上を高血圧とする。
家庭では朝食前に2回血圧を測定することが望ましい。
心筋梗塞や脳卒中の発症は朝起床後に多発することから、早朝の高血圧管理が重要である(早朝高血圧)。
脳卒中や心筋梗塞の発症には高血圧のみならず、喫煙、高脂血症、糖尿病、肥満などの他の危険因子も関与するために、危険因子や合併症も考慮した高血圧の層別化によって将来の脳卒中、心筋梗塞の危険度の予測能が高まる。
動脈硬化の診断や、腎機能、血圧反射機能などの自律神経機能等の診断も病態の把握に重要であり、動脈硬化の定量診断には脈波伝播速度計測なども行われている。血圧反射機能診断のためには、血圧変化に対する心拍反応や、動脈の血圧反射機能を診断する方法論も提案されている。
精密な病態の診断が最適な治療には不可欠である。

  • 症候性高血圧(腎性・内分泌性・中枢性・心臓血管性・神経性)。
  • 本態性高血圧症(原因不明)。通常、高血圧といえば本症をさす。
  • 遺伝的素因。多量の食塩の摂取や飲酒、喫煙、心身過労などが誘因。
  • 徐々に発病し、自覚症状の見られないものも多い。
  • 長期間高血圧状態が持続、腎・脳血管障害→それぞれの症状を生じる。
  • 自覚症状:頭痛、不眠、耳鳴、眩暈、易疲労性、動悸、息切れ、肩こりなど。
  • 最高血圧だけが高い:大動脈硬化症(動脈硬化性高血圧症→老人、大動脈閉 鎖不全・バセドウ病→心拍出量増大)、本態性高血圧症の初期。
  • 最高、最低ともに高い:①本態性高血圧症の固定期。②症候性高血圧症。
  • 血管圧迫なしで拍動音:大動脈弁閉鎖不全、甲状腺機能亢進症、虚弱体質。
症候性高血圧1、腎性
・腎前性(腎血管性)→腎動脈狭窄
・腎実質性→急性・慢性糸球体腎炎、腎盂腎炎、妊娠腎、腎結核など
・腎後性→尿路結石、尿道圧迫など
2、内分泌性
・副腎髓質性→褐色細胞腫
・副腎皮質性→アルドステロン症、巨人症、クッシング症候群
・甲状腺→甲状腺機能亢進症
3、心・血管性→大動脈硬化症、心ブロック、大動脈縮窄症など
4、神経性→脳腫瘍、脳圧亢進、脳幹障害
5、その他
本態性高血圧原因不明